フラーレンナノウィスカーの超伝導化に成功
軽量でフレキシブルな超伝導素材の誕生に大きく前進
2011.12.27
独立行政法人 物質・材料研究機構
NIMSは、フラーレンナノウィスカーの超伝導化に成功した。今回の研究により、糸状や布状の『しなやかで軽い超伝導体』という、超伝導の新たな素材開発が可能になる。
概要
- 独立行政法人 物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田資勝、以下NIMS) は、フラーレンナノウィスカーの超伝導化に成功した。フラーレンナノウィスカーは、ナノサイズのカーボン素材で、軽くて細長いファイバー形状をしている。従来の超伝導物質は、超伝導転移温度の比較的高いものは主として金属間化合物やセラミックスであり、それらは重量が大きく硬い材料が多かった。今回の研究により、糸状や布状の『しなやかで軽い超伝導体』という、超伝導の新たな素材開発が可能になる。本研究成果は、ナノフロンティア材料グループの高野 義彦グループリーダー、竹屋 浩幸主席研究員、フラーレン工学グループの宮澤 薫一グループリーダーらの共同研究によって得られた。
- 超伝導は、電気のエネルギーをロス無く輸送できるため、環境エネルギー問題解決の切り札として期待されているが、これを軽量な炭素で実現させようと注目されているのがフラーレンである。フラーレンC60とは、炭素原子がサッカーボール状に配列した炭素素材で1985年に発見された。カリウムを少量添加すると超伝導になることが発見され、炭素が材料であることから、『軽い超伝導体』として大いに期待されていた。しかし、これまで一般に用いられている反応法では、フラーレン原料のうち超伝導になる割合が1日の処理で1%以下ときわめて低いため、良質な超伝導体を得ることが難しかった。
- 今回の研究では、フラーレンから合成できるナノサイズの糸状物質であるフラーレンナノウィスカーにカリウムを添加し、熱処理を施すことにより、超伝導を発現させることに世界で初めて成功した。超伝導化しても、細長いファイバー状の構造を保っている。しかも、1日の熱処理で試料のほぼ100%が超伝導になっていることが分かった。磁化測定結果より、超伝導転移温度は約17Kであり、さらに、臨界電流密度は磁場中においても105A/cm2以上と非常に高く、磁場の増加に伴い臨界電流密度の減少が少ない、優れた超伝導素材であることが明らかになった。
- 高温超伝導体を始めMgB2など、超伝導転移温度の高い材料は硬くもろいものが多く、電線など線状に加工するためには高度な技術が必要だったが、今回得られたフラーレンナノウィスカー超伝導体は、最初から軽く細長いファイバー形状をしており、超伝導化した後も細長いファイバー形状を保っているため、束ねて糸状、さらには布状など、今後、多彩な形態の超伝導材料が生み出せるものと考えられ、軽くてフレキシブルな超伝導体の実現に大きく前進した。
- 本研究成果は、文部科学省の科研費・特定領域研究 (研究総括 : 谷垣勝己・東北大学教授) の研究課題「炭素系化合物の物質探索」 (研究代表者 : 高野 義彦) 及び「ノベルナノカーボンの開発と機能化」 (サブテーマリーダー : 宮澤 薫一) の一環として得られた。2012年1月5日から物質・材料研究機構で行われる、特定領域研究会議で発表する予定である。