分子軸とスピンの向きを指定した酸化反応を世界で初めて実現
シリコン酸化反応のメカニズム解明に貢献
]2012.04.26
独立行政法人物質・材料研究機構
NIMSの極限計測ユニットは、分子軸とスピンの向きを指定できる酸素分子ビームを世界で初めて開発した。
概要
- 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) 極限計測ユニット (ユニット長 : 藤田大介) の倉橋 光紀主幹研究員と山内 泰グループリーダーの研究グループは、分子軸とスピンの向きを指定できる酸素分子ビームを世界で初めて開発した。これをシリコン表面の酸化反応に適用し、分子軸が表面に殆ど平行な酸素分子のみがシリコン酸化反応に寄与することを発見した。
- 酸素分子は基礎科学、材料開発の殆ど全ての分野において最も重要な分子である。酸素分子は直線分子という異方的形状を持ち、また2個の不対電子に由来するスピンを持つ。しかし酸素分子の形とスピンが酸化反応にどのように影響しているのか、実験的に調べることはこれまで不可能であった。またシリコン酸化初期過程は、熱酸化によるゲート絶縁膜生成過程の理解を目的として詳しく研究されてきたが、特に初期反応確率が低い原因については不明であった。
- 倉橋らは、六極磁子による磁場選別法に着目し、分子軸の向きおよびスピンの向きの双方が指定できる酸素分子のビームを世界で初めて開発した。そしてこのビームをシリコン表面の酸化反応に適用し、酸素分子軸が表面に対して殆ど平行な分子のみがシリコン酸化反応に寄与していることを突き止めた。シリコン酸化反応では酸素の分子軸の向きに対する制約が強く、角度条件を満たす一部の分子しか反応できないために、反応が進みにくいことを証明した。
- 本研究によって、酸素分子軸の向きとスピンの向きが酸化反応に与える影響を分析する新手法を確立するとともに、シリコン酸化反応の効率が低い原因を解明することができた。本手法は酸化反応機構の解析のみならず、分子軸あるいはスピン方向制御による酸化反応制御や本ビームを用いた新物質創製に利用できると期待される。
- 本研究成果はNIMS第三期中期計画プロジェクト「先端材料計測技術の開発と応用」(リーダー:藤田大介)ならびに独立行政法人 日本学術振興会の科学研究費助成事業・基盤研究 (B) 「単一量子状態選別三重項酸素分子ビームによる表面反応スピン・立体効果の解明」(研究代表者 : 倉橋 光紀)の一環として得られた。米国物理学会雑誌Physical Review B (Rapid communication) オンライン版に4月19日に掲載された。