固体電気化学反応を原子レベルで初めて観察
イオニクスデバイスの高性能化に不可欠な情報の取得に道
2012.04.30
独立行政法人 物質・材料研究機構
独立行政法人 科学技術振興機構
NIMSのMANAの研究グループは、ドイツ・アーヘン工科大学、ユーリッヒ研究所の研究グループと共同で、固体電気化学反応における電子の授受とそれに伴う金属イオンの還元・析出反応を原子レベルで観察することに初めて成功した。
概要
- 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の青野 正和 拠点長、長谷川 剛 主任研究者、鶴岡 徹 MANA研究員らの研究グループは、ドイツ・アーヘン工科大学のR. バーザー教授、ユーリッヒ研究所のI. バロブ博士らの研究グループと共同で、固体電気化学反応における電子の授受とそれに伴う金属イオンの還元・析出反応を原子レベルで観察することに初めて成功しました。
- 固体電気化学反応はファラデーの時代から知られる現象であり、電池やセンサーなどの幅広い分野で利用されています。その反応過程は、電子の授受を伴うイオンの酸化・還元反応として化学反応式で記述されてきました。しかしながら、原子スケールでそれらの反応がどのように進むのかは分かっていませんでした。燃料電池などの固体電気化学反応を用いたイオニクスデバイスは、低炭素・省エネルギー社会を実現する素子として期待されています。これら素子の高効率化を実現する上で、原子スケールで反応過程を明らかにし、開発指針を得ることが求められていました。
- 本研究では、基板材料であるイオン伝導体に不純物をわずかに加えることで、固体電気化学反応に必要なイオン伝導体の特性はそのままに電子伝導性を発現させることに成功しました。その結果、微弱な電流を必要とする走査型トンネル顕微鏡による観察が可能になり、固体電気化学反応に必要な電子の授受とそれに伴う金属イオンの還元・析出反応の観察を同時に実現しました。
- 観察の結果、固体電気化学反応では電圧印加後金属イオンの還元・析出反応が始まるまでに一定の時間を要すること、ある値以上の電圧を印加することでその時間が無視できるほど小さくなることなど、化学反応式には現れない様々な現象が明らかになりました。得られた知見をイオニクスデバイスのひとつである原子スイッチに応用した結果、一定以上の動作電圧を用いることでスイッチング速度が格段に速くなることが確認できました。
- 固体電気化学反応の効率は、電極の微細構造や組成などによって大きく変化します。この度開発した観察手法は固体電気化学反応全般に適用可能であり、センサーや燃料電池、触媒など、固体電気化学反応を利用した製品の高効率化に寄与することが期待されます。
- 本研究の一部は、科学技術振興機構 (JST) —ドイツ研究振興協会 (DFG) 戦略的国際科学技術協力推進事業日独交流研究における研究課題「固体電解質原子スイッチ動作における電荷交換と移動に関する研究」 (日本側研究代表者 : 物質・材料研究機構 長谷川 剛、ドイツ側研究代表者 : アーヘン工科大学 R.バーザー) の支援を受けて行われました。
- 本研究成果は、日本時間2012年4月30日2:00 (現地時間29日18:00) に英国科学雑誌「Nature Materials」のオンライン速報版で公開されます。