ナノサイズのフレークで、伸縮自在の“ふわふわカプセル ”を作製

抗がん剤等の放出持続時間を自在に制御

2012.05.08


独立行政法人物質・材料研究機構

NIMS 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点はメルボルン大学と共同で、無機物のナノメートル厚のフレーク状物体 (ナノシート) でできた伸縮自体のカプセルを新たに開発しました。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (拠点長 : 青野 正和) 超分子ユニット (ユニット長 : 有賀 克彦) の吉 慶敏 (ジ チンミン) MANA 研究者らは、メルボルン大学 (オーストラリア) の F. カルーソ教授と共同で、無機物のナノメートル厚のフレーク状物体 (ナノシート) でできた伸縮自体のカプセルを新たに開発しました。抗がん剤などの薬物の放出持続時間を自在に制御し、数倍に延長できることを実証しました。
  2. ドラッグデリバリーシステム (DDS) は、癌などの病理部位に薬物を確実に送り込む手法として期待されています。通常、薬物は体内で吸収・分解されるため、患部以外の部位にも広範囲に分散し、患部に薬物が到達できるかどうかは制御できるわけではありません。そのため、薬物を運搬できるマイクロカプセルやナノカプセルの開発が急がれています。
  3. これまで、カプセルを形成する物質としてシリカなどの無機物と脂質/ポリマーなどの有機物が用いられてきました。無機物のカプセルは、硬くて強靭ですが、構造を臨機応変に調節するのは容易ではありません。有機物のカプセルは柔らかくて構造の調節が可能ですが、機械的強度に劣ります。その両者の利点を生かしたようなカプセル構造を薬物担体として開発することが望まれていました。
  4. 本研究では、無機物であるシリカのナノシートがふんわりと集まって出来上がった“ふわふわ”カプセルの開発に成功しました。これは、機械的に安定な無機物のカプセルでありながら、自在に構造を制御できるカプセルです。
  5. このカプセルは、熱をかければ収縮・膨張し、また、いろいろな pH で調整すれば、薬物の通り道となる外壁の孔 (ナノシートの隙間) の大きさを変えることもできます。その結果、抗がん剤 DOXの放出持続時間を従来の単純構造のポーラスカプセルに比べて、数倍長くすることに成功しました、あらかじめ適当な pH 条件下でカプセルを処理しておくと、薬物を通す孔の構造が変わり、薬物の放出持続時間や薬物の貯蔵量をコントロールすることもできます。
  6. 本研究成果は、科学雑誌「Small」のオンライン速報版で公開されます。

「プレス資料中の図1: フレークシェルの形成フレークシェルはシリカのナノ粒子が外側から溶解していき、その周囲でナノシートが析出集合していくことで形成される。」の画像

プレス資料中の図1: フレークシェルの形成
フレークシェルはシリカのナノ粒子が外側から溶解していき、その周囲でナノシートが析出集合していくことで形成される。