空気中の物質を鋭敏に感知して発光するフィルムを開発

微量物質の検出センサーや新たなディスプレイへの応用に期待

2012.05.21


独立行政法人物質・材料研究機構
独立行政法人科学技術振興機構

NIMSとJSTは、空気中の物質を感知して発光する特性を示す有機/金属ハイブリッドポリマーを開発した。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝、以下NIMS) と独立行政法人科学技術振興機構 (理事長 : 中村 道治、以下JST) は、空気中の物質を感知して発光する特性を示す有機/金属ハイブリッドポリマーを開発した。この成果は、先端的共通技術部門 高分子材料ユニット 電子機能材料グループの樋口 昌芳グループリーダー、佐藤 敬博士研究員の研究によって得られた。
  2. 熱や電気などの外部刺激を感じて光る材料は、視覚的なヒューマンインターフェース性に優れた発光センサーや表示素子としての利用が大いに期待され、実用化が始まっているものもある。例えば、電圧を加えると発光する材料は、有機ELディスプレイとして既に商品化されている。一方、物質の蒸気 (Vapor) を感知して光る (Luminescence) 物質は、ベイポルミネセンス (Vapo-Luminescence) 物質と呼ばれるが、報告例は少なく、また表示素子など実用を見据えた研究もされてこなかった。
  3. 今回の成果は、新たに開発した有機/金属ハイブリッドポリマーを用いて、酸性やアルカリ性の気体を検知できる発光性ポリマーフィルムを実現したものである。
  4. 開発したポリマーは、希土類金属イオンであるユウロピウムイオンと有機分子が数珠 (じゅず) つなぎになった有機/金属ハイブリッドポリマーであり、非晶質 (アモルファス) なのでスピンコート等によるフィルム化が容易で、またユウロピウムイオン錯体に由来する赤色発光を示す。今回、このポリマーフィルムの発光が、酸性の蒸気に触れることで消え、その後アルカリ性の蒸気に触れることで、再び光りだすことを発見した。また、それらの蒸気を感じて表示と非表示を繰り返す文字の印字にも成功した。本発明により、空気中の物質を感知し、知らせてくれる発光センサーやそのディスプレイへの応用に向けた研究が、今後大きく進むと期待される。
  5. 本研究成果は、JST戦略的創造研究推進事業CRESTの「プロセスインテグレーションによる機能発現ナノシステムの創製」領域 (研究総括 : 曽根 純一) の研究課題「エレクトロクロミック型カラー電子ペーパー」 (研究代表者 : 樋口 昌芳) の一環として得られたもので、5月21日付けの英国王立化学会の速報誌「Chemical Communications」に掲載される (注目論文として同誌の裏表紙 (Inside Back Cover) でも紹介) 。

「プレス資料中の図2: ユウロピウムイオンを含む有機/金属ハイブリッドポリマーフィルムにおける可逆なベイポルミネセンス変化。」の画像

プレス資料中の図2: ユウロピウムイオンを含む有機/金属ハイブリッドポリマーフィルムにおける可逆なベイポルミネセンス変化。