秒速1,000メートルの高速度粒子によるコーティング技術を開発
チタン合金厚膜を大気中で形成可能に
2012.06.14
独立行政法人物質・材料研究機構
国立大学法人鹿児島大学
プラズマ技研工業株式会社
NIMS 先進高温材料ユニットの研究グループは、鹿児島大学、プラズマ技研工業株式会社と共同で、NIMSオリジナルのコーティングプロセスであるウォームスプレー法を改良し、燃焼圧力を従来の四倍に高圧化することによって基材に投射する溶射粒子の速度を1,000m/sにまで高め、従来は良質な皮膜の形成が困難だったチタン合金の皮膜化を可能にしました。
概要
- 材料のコーティング (皮膜の形成) は、材料の耐熱性や耐腐食、耐摩擦性を劇的に改善し、従来にない性能をもった素材に変化させるため、現代の産業に非常に重要な技術です。今回、独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝、NIMS) 先進高温材料ユニットの黒田 聖治ユニット長、渡邊 誠主任研究員、荒木 弘主席エンジニアらの研究グループは、国立大学法人鹿児島大学 (学長 : 吉田 浩己) 理工学研究科の片野田 洋准教授、プラズマ技研工業株式会社 (社長 : 深沼 博隆) の大野 直行技術部長らと共同で、NIMSオリジナルのコーティングプロセスであるウォームスプレー法を改良し、燃焼圧力を従来の四倍に高圧化することによって基材に投射する溶射粒子の速度を1,000m/sにまで高め、従来は良質な皮膜の形成が困難だったチタン合金の皮膜化を可能にしました。
- 固体の金属粒子を高速度で基材に衝突させると、粒子は扁平に変形し、基材には凹みができて跳ね返されます。しかし、衝突時の速度がある値を超えると両者の界面で局所的に大きなせん断塑性変形 (せん断不安定性) が生じて表面の酸化物などが排除され、接合が生じます。この技術は1980年代にロシアで発見され、この現象を利用したコールドスプレーと言うコーティングプロセスが現在注目を集めています。NIMSでは、さらに粒子を融点以下の適切な温度に加熱することによって皮膜の緻密化を促進できることを見出し、2006年にウォームスプレーと命名して鹿児島大学、プラズマ技研工業と共同で研究開発を続けてきました。
- 本研究では粒子速度のさらなる高速度化を目標に、圧縮性気体力学の専門家である片野田准教授が装置の基本設計を行い、プラズマ技研工業が装置を設計・製作し、NIMSで検証実験を実施しました。粒子画像速度法 (Particle Image Velocimetry) によって溶射粒子の平均速度を計測したところ、適切な条件下では30ミクロン径のチタン粒子の飛行速度が1,000 m/sに達していることが判明しました。
- このプロセスを高強度チタン合金の一種で航空機エンジン等に多用されているTi-6Al-4V合金の粉末に適用したところ、最適な条件下で気孔率1vol%以下、酸素含有量0.25 mass% (原料粉末 : 0.15 mass%) の合金皮膜を得ることができました。これはコールドスプレー法で高価な作動ガスであるヘリウムを用いて成膜された結果を上回るものです。
- 本研究成果は、2012年6月18日に広島市鯉城会館で開催される第95回日本溶射学会全国講演大会において発表されます。