なぜ 酒で煮ると超伝導物質に変わるのか?

原因物質とメカニズムの解明で超伝導研究開発に新たな可能性

2012.07.16


独立行政法人物質・材料研究機構
慶應義塾大学先端生命科学研究所

NIMSは以前、鉄系超伝導関連物質の鉄テルル化合物を酒中で煮ると超伝導体に変わることを発見したが、今回、慶應義塾大学 先端生命科学研究所との共同研究により、酒中に含まれる超伝導誘発物質を同定し、その誘発メカニズムを明らかにした。

概要

  1. 独立行政法人 物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝、茨城県つくば市、以下NIMS) は、鉄系超伝導関連物質である鉄テルル化合物〔Fe(Te,S)系〕を酒中で煮ると超伝導体に変わることを発見した (平成22年7月27日 NIMS - 独立行政法人科学技術振興機構 (以下JST) 共同プレス発表) 。今回、慶應義塾大学 先端生命科学研究所 (所長 : 冨田 勝、山形県鶴岡市、以下慶應大先端研) との共同研究により、酒中に含まれる超伝導誘発物質を同定し、その誘発メカニズムを明らかにした。
  2. 慶應大先端研が開発したメタボロミクスの手法であるキャピラリー電気泳動 - 飛行時間型質量分析装置 (CE-TOFMS) を用いて、6種類の酒 (赤ワイン・白ワイン・ビール・ウイスキー・日本酒・焼酎) に含まれる成分を網羅的に定量し、それと超伝導体積率を比較することで超伝導を誘発する候補物質を絞り込んだ。
  3. その候補物質の中でも特に相関が高いリンゴ酸・クエン酸・β-アラニンについて、実際に超伝導誘発作用を持つことを確認した。
  4. 候補物質がすべてキレート作用を持つ点に着目し、酒及び上記3物質で鉄テルル化合物を煮た後の溶液を調べてみると、試料から溶出したと思われる鉄イオンが検出された。
  5. 以上のことから、酒中の超伝導誘発因子とはキレート効果を持つ有機酸などであり、それらが試料から超伝導を抑制する余分な鉄を除去することで超伝導が誘発されると結論づけた。
  6. 余分な鉄が超伝導に悪影響を与える可能性は他の鉄系超伝導体でも十分起こりうることから、本研究成果は鉄系超伝導体の研究開発に新たな指針を与えると期待される。
  7. 本研究はNIMSナノフロンティア材料グループの高野 義彦 グループリーダーらと、慶應大先端研の佐藤暖特任助教らの共同研究の成果であり、国際学術誌Superconductor Science and Technologyの鉄系超伝導特集号 (7月に出版予定) に掲載される。

「プレス資料中の図3赤ワイン及びリンゴ酸・クエン酸・β-アラニン溶液と超伝導体積率の関係。後者3つの濃度は赤ワイン中の濃度と同じである。」の画像

プレス資料中の図3
赤ワイン及びリンゴ酸・クエン酸・β-アラニン溶液と超伝導体積率の関係。後者3つの濃度は赤ワイン中の濃度と同じである。