免疫を活性化する核酸医薬の効果をナノ粒子で増強する技術を開発

アレルギー疾患や感染症の治療への応用に期待

2012.07.26


独立行政法人物質・材料研究機構

NIMS ナノテクノロジー融合ステーションは、免疫を活性化する核酸医薬の作用をナノ粒子によって増強させる技術の開発に成功した。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田資勝) ナノテクノロジー融合ステーション (ステーション長 : 花方 信孝) は、免疫を活性化する核酸医薬の作用をナノ粒子によって増強させる技術の開発に成功した。
  2. 核酸医薬とは、DNAやRNAで作られた薬で、特定のタンパク質や塩基配列をピンポイントで狙う最先端の分子標的薬である。ガンやウィルス感染症、自己免疫疾患、花粉症などのアレルギー治療薬として期待が高い。今回の研究は、免疫の活性化作用を持つ核酸医薬の効果をナノ粒子によって増強させる技術で、花粉症治療などへの応用を目指している。
  3. 既に開発されているCpG ODNという核酸医薬には主に2つのタイプがある。ひとつは、主にインターフェロンを誘導するタイプ (インターフェロン型) であり、もうひとつは、インターロイキン6 を誘導するタイプ (インターロイキン型) である。インターフェロンやインターロイキン6は、免疫活性化にかかわる物質である。ところが、免疫効果を高める目的でこれら2つのタイプのCpG ODNを同時に使用しても、従来の方法では、インターフェロンとインターロイキン6を同時に誘導することは不可能であった。
  4. 今回の研究では、CpG ODNのインターロイキン型のみを用い、シリコンのナノ粒子に2つの異なる結合方法で搭載し、この2つを同時に使用した。その結果、インターフェロンとインターロイキン6を同時に高いレベルで活性化させることに世界で初めて成功した。
  5. ナノ粒子に薬剤を搭載して治療に応用する方法は、ドラッグデリバリーと呼ばれている。従来、ドラッグデリバリーにおけるナノ粒子は、薬剤を目的の細胞や組織に送達し、そこで薬剤を放出することが主な役割であった。今回の研究では、ナノ粒子が薬剤の搬送・放出機能だけではなく、薬剤の効果の発現自体を制御可能という重要な役割をも担っている。
  6. この成果は、感染症の治療、癌の免疫治療および花粉症などのアレルギー疾患の治療への応用の可能性とともに、CpG ODN以外の他の核酸医薬への応用も期待できる。
  7. 本研究成果は、英国ネイチャー出版グループのオンラインジャーナルScientific Reportsに近く公開される。
  8. 本研究は、文部科学省のナノテクノロジーネットワーク事業として、インド・アンナ大学医学物理部門との共同研究として行われた。ナノテクノロジーネットワーク事業は、施設・設備の共用化による研究支援事業であり平成24年3月で終了した。平成24年7月からは文部科学省の新たな研究支援事業であるナノテクノロジープラットフォームが開始されている。

「プレス資料中の図3 : CpG ODNのナノ粒子による効果の変化。遊離のCpG ODN分子はTLR9と相互作用してインターロイキン6 (IL-6)を誘導する(左図)。シリコンナノ粒子(青丸)に静電的に結合させたCpG ODNはインターフェロン(IFN)を誘導するようになる (中央図) 。シリコンナノ粒子に一端のみを結合したCpG ODNは遊離のCpG ODNと同様にIL-6を誘導する (右図) 。」の画像

プレス資料中の図3 : CpG ODNのナノ粒子による効果の変化。遊離のCpG ODN分子はTLR9と相互作用してインターロイキン6 (IL-6)を誘導する(左図)。シリコンナノ粒子(青丸)に静電的に結合させたCpG ODNはインターフェロン(IFN)を誘導するようになる (中央図) 。シリコンナノ粒子に一端のみを結合したCpG ODNは遊離のCpG ODNと同様にIL-6を誘導する (右図) 。