安全かつ高効率に遺伝子を細胞へ導入できるナノシート開発に成功
血友病や糖尿病など、遺伝性疾患や難治性疾患の細胞治療へ応用
2012.08.02
独立行政法人物質・材料研究機構
NIMS 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点は、動物細胞に特定の遺伝子を高効率かつ安全に導入できるナノ構造のシートを開発し、その成果を実証しました。
概要
- 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (拠点長 : 青野 正和) 超分子ユニット (ユニット長 : 有賀 克彦) の吉 慶敏 (ジ チンミン) MANA 研究者とバイオマテリアルユニット (ユニット長 : 青柳 隆夫) 生命機能制御グループ (グループリーダー : 花方 信孝) の山崎 智彦MANA 研究者らは、動物細胞に特定の遺伝子を高効率かつ安全に導入できるナノ構造のシートを開発し、その成果を実証しました。
- 遺伝子を細胞に導入する方法には、液体中で行う方法と、固体の表面にDNAを固定しそこに細胞を接着させることでDNAを取り込ませる方法があります。今回の成果は、固体を用いる『固相トランスフェクション法』の1つで、液相トランスフェクションと比較して、少ないDNA量でも高い効率で細胞に遺伝子を導入できる技術として注目されています。また固体表面に多種類のDNAを整列して、細胞に導入することができることから、遺伝子の効果の系統的解析、プロファイリングに有効です。
- しかし、これまで固相トランスフェクションでは遺伝子導入促進剤として、動物由来のタンパク質であるフィブロネクチンという細胞外マトリクスなどが用いられてきました。そのために、遺伝子導入された細胞を体内に戻すような臨床応用の場では安全性などの面でかなりハードルの高いことが問題視されてきました。
- 今回の成果では、動物由来ではない無機物のシリカだけを用い、表面からナノスケールの壁が無数に突き出したナノシートを開発しました。このナノ構造シリカに遺伝子を固着させ、細胞を接触させると極めて効率よく遺伝子が細胞内に導入されることがわかりました。本方法では動物由来の遺伝子導入促進剤を必要としないことから、安全かつ簡便な固相トランスフェクション法となります。
- 本研究成果は、画期的な遺伝子導入方法として、細胞治療に応用できます。先天性代謝異常症、血友病などの遺伝性疾患、また糖尿病などの難治性疾患の細胞治療に大きく貢献します。
- 本研究成果は、7月30日 (英国時間) より科学雑誌「Chemical Communications」でオンライン公開されています。