非磁性原子を置換することで磁性・誘電特性の制御に成功

次世代メモリデバイスの開発に新しいアイディア

2012.08.08


独立行政法人物質・材料研究機構

NIMS 量子ビームユニット、国際ナノアーキテクトニクス研究拠点らの研究グループは、ラザフォード・アップルトン研究所、オックスフォード大学と共同で、磁性体中の非磁性原子を他の原子に置換することによって磁気特性、誘電特性が大きく制御できることを発見しました。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝、以下NIMS) 量子ビームユニット (ユニット長 : 北澤 英明) 中性子散乱グループの寺田 典樹主任研究員、国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (拠点長 : 青野 正和) 辻本 吉廣 ICYS-MANA研究員らの研究グループは、ラザフォード・アップルトン研究所 (英国) 、オックスフォード大学 (英国) と共同で、磁性体中の非磁性原子を他の原子に置換することによって磁気特性、誘電特性が大きく制御できることを発見しました。
  2. 近年マルチフェロイクスと呼ばれている磁性誘電体が注目されています。マルチフェロイクス材料は、従来のような磁場によって磁化、電場によって誘電分極を制御するのではなく、磁場によって誘電分極、電場によって磁化を制御する新しいタイプの記憶メモリデバイスへの応用が期待されています。近年世界中で室温かつ巨大な強誘電分極をもつマルチフェロイクス材料の探索が行われていますが、室温で機能するマルチフェロイクス材料は希少で、新しいアイディアに基づいた材料開発が求められていました。
  3. 寺田らは、NIMSの超高圧合成装置を用い、デラフォサイト酸化物CuFeO2の非磁性CuイオンをAgイオンに完全に置き換えた良質なAgFeO2試料を合成することに成功し、磁場がない環境で強誘電分極が発現することを明らかにしました。また、英国のラザフォード・アプルトン研究所のグループと共同で高分解能中性子回折実験に取り組んだ結果、この物質の結晶構造とスピン構造を初めて明らかにし、強誘電分極のメカニズムを解明しました。
  4. 本研究成果は、非磁性イオンを他の非磁性イオンに置換することでマルチフェロイクス特性を発現させることに成功した、デラフォサイト酸化物として初めての例です。次世代大容量記憶メモリの開発や新エネルギー変換材料開発に大きく貢献すると期待されます。
  5. 本研究成果は、独立行政法人日本学術振興会の「頭脳循環を活性化する若手研究者海外派遣プログラム」、及び「海外特別研究員制度」の支援を受けて行われた研究成果です。なお、本成果は米国物理学会の速報誌Physical Review Lettersに掲載される予定です。

「プレス資料中の図2 : (左)三角格子反強磁性体CuFeO2の磁気構造。すべてのスピンが三角格子に垂直方向を向く。 (コリニア磁気構造) (右)AgFeO2の磁気構造。隣り合ったスピンが互いに一定の角度で回転し、長周期の磁気秩序を形成している。 (サイクロイド磁気構造) 非磁性イオンを銅イオンから銀イオンに置き換えることによって、磁気構造を変化させ、強誘電状態が実現する」の画像

プレス資料中の図2 : (左)三角格子反強磁性体CuFeO2の磁気構造。すべてのスピンが三角格子に垂直方向を向く。 (コリニア磁気構造) (右)AgFeO2の磁気構造。隣り合ったスピンが互いに一定の角度で回転し、長周期の磁気秩序を形成している。 (サイクロイド磁気構造) 非磁性イオンを銅イオンから銀イオンに置き換えることによって、磁気構造を変化させ、強誘電状態が実現する