電子スピンの渦「スキルミオン」を微小電流で駆動
従来の10万分の1の低電流密度での磁気情報操作技術の実現に大きく前進
2012.08.08
独立行政法人理化学研究所
国立大学法人東京大学
独立行政法人物質・材料研究機構
理化学研究所と東京大学、NIMSは、らせん磁性体であるFeGeを用いたマイクロ素子中に、電子スピンが渦巻状に並ぶスキルミオン結晶を生成し、強磁性体中の磁壁を駆動するのに必要な電流の10万分の1以下という微小電流密度で、スキルミオン結晶を駆動することに成功しました。
概要
理化学研究所 (野依 良治 理事長) と東京大学 (濱田 純一 総長) 、物質・材料研究機構 (潮田 資勝 理事長) は、らせん磁性体であるFeGeを用いたマイクロ素子中に、電子スピンが渦巻状に並ぶスキルミオン結晶を生成し、強磁性体中の磁壁を駆動するのに必要な電流の10万分の1以下という微小電流密度で、スキルミオン結晶を駆動することに成功しました。これにより、磁気的な情報担体の状態を、極めて低い消費電力で電気的に操作する技術の実現に向けて有効な指針を得ることができました。これは、理研基幹研究所 (玉尾 皓平 所長) 強相関量子科学研究グループ強相関物性研究チームの于 秀珍 (ウ シュウシン) 特別研究員と十倉 好紀 グループディレクター (東京大学大学院工学系研究科教授) 、物質・材料研究機構先端的共通技術部門 (藤田 大介 部門長) 表界面構造・物性ユニット木本 浩司 ユニット長らによる研究成果です。
磁石の源である電子スピンの向きをデジタル情報として利用する磁気メモリ素子は、高速・不揮発性などの特徴をもつデバイスとして注目されており、その磁気情報を磁場を用いずに電気的に操作する試みが近年盛んに行われています。強磁性体中に電流を流すと、磁化が上向きの磁区と下向きの磁区の境界である磁壁 (そこでは電子スピンの向きが徐々に変化している) を移動させることができるため、磁化反転が可能になり、情報を書き込むことができます。しかし、磁壁を移動させるには、最低でも1平方センチメートル (cm2) あたり約10万アンペア (A) という大電流密度が必要でした。これでは、大量のエネルギー損失が生じる (消費電力が大きい) ため、より低い電流密度で磁気情報担体を操作する方法が望まれていました。
さまざまな機能性磁気材料を探索してきた研究チームは、2010年、らせん磁性体FeGeの薄片に、室温付近で200ミリテスラ (mT) 以下の弱磁場を加え、スキルミオン結晶の生成と観測に成功しています。今回、このFeGeを用いて、縦165 μm、横100 μm、厚さ100 nm~30μmの マイクロ素子を作製し、 - 23℃ ~ 室温近傍 ( - 3℃) で約150 mTの磁場を加えたところ、直径約70nmの安定したスキルミオンが三角格子状に並ぶスキルミオン結晶を観察しました。さらに、従来の強磁性体における磁壁駆動の場合に比べて10万分の1以下という微小な電流密度 ( ~5 A/cm2) で、スキルミオン結晶を駆動することに成功しました。このような微小な電流密度でスキルミオンを駆動できることは、スキルミオンを情報担体として用いた低消費電力の磁気メモリ素子の開発に向けての第一歩であり、現在、次世代の電子技術として研究の盛んなスピントロニクス分野においてさまざまな応用が期待できます。
本研究成果の主たる部分は、総合科学技術会議により制度設計された最先端研究開発支援プログラム(FIRST)の「強相関量子科学」事業 (中心研究者 : 十倉 好紀) によるもので、日本学術振興会を通じて助成され実施されました。また一部は科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業・ERATO型研究プロジェクトおよび文部科学省ナノテクノロジーネットワークによる支援を受けており、英国の科学雑誌『Nature Communications』オンライン版 (8月7日付け : 日本時間8月8日) に掲載されます。
磁石の源である電子スピンの向きをデジタル情報として利用する磁気メモリ素子は、高速・不揮発性などの特徴をもつデバイスとして注目されており、その磁気情報を磁場を用いずに電気的に操作する試みが近年盛んに行われています。強磁性体中に電流を流すと、磁化が上向きの磁区と下向きの磁区の境界である磁壁 (そこでは電子スピンの向きが徐々に変化している) を移動させることができるため、磁化反転が可能になり、情報を書き込むことができます。しかし、磁壁を移動させるには、最低でも1平方センチメートル (cm2) あたり約10万アンペア (A) という大電流密度が必要でした。これでは、大量のエネルギー損失が生じる (消費電力が大きい) ため、より低い電流密度で磁気情報担体を操作する方法が望まれていました。
さまざまな機能性磁気材料を探索してきた研究チームは、2010年、らせん磁性体FeGeの薄片に、室温付近で200ミリテスラ (mT) 以下の弱磁場を加え、スキルミオン結晶の生成と観測に成功しています。今回、このFeGeを用いて、縦165 μm、横100 μm、厚さ100 nm~30μmの マイクロ素子を作製し、 - 23℃ ~ 室温近傍 ( - 3℃) で約150 mTの磁場を加えたところ、直径約70nmの安定したスキルミオンが三角格子状に並ぶスキルミオン結晶を観察しました。さらに、従来の強磁性体における磁壁駆動の場合に比べて10万分の1以下という微小な電流密度 ( ~5 A/cm2) で、スキルミオン結晶を駆動することに成功しました。このような微小な電流密度でスキルミオンを駆動できることは、スキルミオンを情報担体として用いた低消費電力の磁気メモリ素子の開発に向けての第一歩であり、現在、次世代の電子技術として研究の盛んなスピントロニクス分野においてさまざまな応用が期待できます。
本研究成果の主たる部分は、総合科学技術会議により制度設計された最先端研究開発支援プログラム(FIRST)の「強相関量子科学」事業 (中心研究者 : 十倉 好紀) によるもので、日本学術振興会を通じて助成され実施されました。また一部は科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業・ERATO型研究プロジェクトおよび文部科学省ナノテクノロジーネットワークによる支援を受けており、英国の科学雑誌『Nature Communications』オンライン版 (8月7日付け : 日本時間8月8日) に掲載されます。