結晶粒界で磁気物性が上昇する現象を発見

今後の磁性材料開発に向けた新たな設計手法の手がかりへ

2012.12.06


独立行政法人物質・材料研究機構
国立大学法人熊本大学

NIMS 構造材料ユニットは、国立大学法人熊本大学大学院自然科学研究科グループとの共同研究により、純鉄の電子状態を実験的に測定し、磁気特性を表す物性値の一つである磁気モーメントが結晶粒界で上昇する現象を発見し、また、この磁気モーメントの上昇度が結晶粒界の構造によって変化することも明らかにした。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) 構造材料ユニット (ユニット長 : 津﨑 兼彰) の井 誠一郎主任研究員は、国立大学法人熊本大学大学院自然科学研究科 (研究科長 : 高島 和希) 産業創造工学専攻の連川 貞弘教授のグループとの共同研究により、純鉄の電子状態を実験的に測定し、磁気特性を表す物性値の一つである磁気モーメントが結晶粒界で上昇する現象を発見した。また、この磁気モーメントの上昇度が結晶粒界の構造によって変化することも明らかにした。
  2. 結晶粒界は多結晶材料に存在する2次元格子欠陥の一つであり、多結晶材料の特性を決める重要な組織因子の一つとなる。材料の磁気特性に関しては、磁性材料におけるバルクハウゼンノイズや磁区構造と結晶粒界との関連性が実験的に認められていたが、磁気特性を決める重要な物性値の一つである磁気モーメントについては、第一原理計算により結晶粒界での局所的な上昇が予測されていたものの、実験的には明らかにされていなかった。
  3. 井らは、予め電子線後方散乱回折により結晶粒界の構造を決定した純鉄を用いて、透過型電子顕微鏡および電子線損失エネルギー分光法を用いることで、純鉄の局所的な磁気モーメントをナノスケールで測定した。その結果、結晶粒界の局所磁気モーメントは粒内の値と比較して上昇することが明らかとなった。
  4. さらに、局所磁気モーメントの上昇度は粒界の構造によって異なることも明らかとなり、隣接する結晶同士の相対方位差の増加と共に上昇し、その方位差が45度近傍で最大となった。併せて、整合性の良い粒界では磁気モーメントも低下し、局所磁気モーメントが粒界構造依存性を有することがわかった。この結果は、先端科学技術を支える重要な基盤材料である磁性材料の磁気特性の向上に向けた組織制御法に新たな指針を与える結果である。
  5. 本研究成果は文部科学省科学研究費補助金・基盤研究 (S) “材料磁気科学の新展開と実用材料技術への応用”の支援で得られたものである。なお、本成果は平成24年12月3日に材料系速報誌「Scripta Materialia」のオンライン版で公開された。

「プレス資料中の図1:純鉄の粒内、Σ3粒界、ランダム粒界から得られたFeのエネルギー損失分光スペクトル。図中のピークは高エネルギー損失側からそれぞれL2、L3端と呼ばれるピークである。これら二つのピークをまとめてホワイトラインと呼んでおり、点線とプロファイルで囲まれたホワイトラインの面積を求め、その強度比を計算することで、磁気モーメントが測定できる。」の画像

プレス資料中の図1:純鉄の粒内、Σ3粒界、ランダム粒界から得られたFeのエネルギー損失分光スペクトル。図中のピークは高エネルギー損失側からそれぞれL2、L3端と呼ばれるピークである。これら二つのピークをまとめてホワイトラインと呼んでおり、点線とプロファイルで囲まれたホワイトラインの面積を求め、その強度比を計算することで、磁気モーメントが測定できる。