空間反転対称性がある強磁性体でスキルミオン(磁気渦構造体)を観測

磁気情報技術に新たな知見

2013.04.29


独立行政法人物質・材料研究機構

NIMS 表界面構造・物性ユニット、超伝導物性ユニットらの研究グループは、ローレンツ電子顕微鏡法を用いて結晶に空間反転対称性 が存在する強磁性マンガン酸化物のナノ磁気クラスターが自発的にスキルミオン構造を形成していることを明らかにしました。

概要

  1. 独立行政法人 物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) 表界面構造・物性ユニットの長尾 全寛博士研究員 (および早稲田大学) 、肖 英紀博士研究員 (現東京大学) 、原 徹主幹研究員、木本 浩司ユニット長、超伝導物性ユニット磯部 雅朗グループリーダーらは、ローレンツ電子顕微鏡法を用いて結晶に空間反転対称性 が存在する強磁性マンガン酸化物のナノ磁気クラスターが自発的にスキルミオン構造を形成していることを明らかにしました。
  2. 近年発見された磁気スキルミオンと呼ばれる磁気渦構造体は、巨大な異常ホール効果や超低密度電流でのスキルミオン駆動など従来にない興味深い物性が明らかになり、新たな磁気素子として応用への期待が高まっています。スキルミオン形成には空間反転対称性がない磁性体に磁場をかけることが必須だと考えられています。
  3. これに対し、今回のローレンツ電子顕微鏡法を用いた直接観察から、空間反転対称性が存在する強磁性マンガン酸化物においても、ナノ磁気クラスターが自発的にスキルミオン構造を形成していることがはじめて明らかとなりました。この結果は、従来必須とされていた条件を満たさない様々な強磁性体のナノ磁気クラスターやナノ粒子においても、スキルミオン構造が形成される可能性を示唆しています。
  4. 今回観察されたスキルミオンは熱揺らぎの影響により、一定の温度で磁気渦が時計回り・反時計回りと繰り返し反転する現象を示しました。また、2つのスキルミオンが近接する場合には同じ渦方向に同期して反転することが分かりました。この結果は、スキルミオン間の相互作用を利用した磁気素子の開発に新たな知見を与えると思われます。
  5. さらに、ローレンツ電子顕微鏡観察から個々のナノ磁気クラスターの磁気渦反転に必要なエネルギーを求める方法を示しました。この方法は、通常の測定では磁化反転に必要なエネルギーを求めることが困難なナノ磁性体やナノ磁気デバイスに広く適用が可能です。
  6. 本研究成果は、英国科学雑誌「Nature Nanotechnology」オンライン速報版で日本時間平成25年4月29日2:00 (現地時間28日18:00) に公開されます。

「図3.ナノ磁気クラスターの高倍率の像。(a),(b)はそれぞれ正焦点からマイナス側とプラス側に焦点を外した像。(c)は(a),(b)から求めた面内の磁化分布マップ。色の分布と濃度がそれぞれ面内磁化の方向と強度を表す (右下の挿入図参照) 。矢印の方向と大きさもそれぞれ面内磁化の方向と強度を表す。(d),(e)は別々の磁気クラスターの外部磁場(B)に対する応答。外部磁場の向きは紙面手前から裏側方向。(e)の右上の緑の直線は試料の端が作る偽の像。」の画像

図3.ナノ磁気クラスターの高倍率の像。(a),(b)はそれぞれ正焦点からマイナス側とプラス側に焦点を外した像。(c)は(a),(b)から求めた面内の磁化分布マップ。色の分布と濃度がそれぞれ面内磁化の方向と強度を表す (右下の挿入図参照) 。矢印の方向と大きさもそれぞれ面内磁化の方向と強度を表す。(d),(e)は別々の磁気クラスターの外部磁場(B)に対する応答。外部磁場の向きは紙面手前から裏側方向。(e)の右上の緑の直線は試料の端が作る偽の像。