原料ガスを高効率でダイヤモンドに変換する新合成技術
ダイヤモンドバルク結晶の炭素同位体比で世界最高
2013.05.07
独立行政法人物質・材料研究機構
独立行政法人科学技術振興機構
NIMS 光・電子材料ユニットの寺地 徳之主任研究員らの研究グループは、化学気相合成(CVD)でダイヤモンドを生成する際の原料利用率を大幅に向上する新合成技術を開発しました。
概要
- 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) 光・電子材料ユニット (ユニット長 : 大橋 直樹) の寺地 徳之主任研究員らの研究グループは、化学気相合成 (CVD) でダイヤモンドを生成する際の原料利用率を大幅に向上する新合成技術を開発しました。また、この新技術を、質量数12の炭素 (12C) で同位体濃縮したダイヤモンド結晶の合成に適用し、世界最高の12C同位体比を持つダイヤモンドバルク単結晶の合成に成功しました。
- 高純度ダイヤモンドをCVD法で合成する場合、一般にメタンガスが原料に用いられます。通常は供給されたメタンガスの高々1%がダイヤモンドに変換され、99%以上のメタンガスは未反応のまま排気されます。この低い原料利用率のため、原料ガスを多量に消費するバルク結晶合成では、コストの面から高価な原料ガスの利用が困難でした。新開発のCVD法を用いたダイヤモンド合成技術では、従来法と大きく異なる条件で原料ガスを供給することで、メタンガス原料の原料利用率を大幅に向上させました。その結果、多結晶ダイヤモンド合成時の原料利用率で、80%という非常に高い値を実現しました。
- 原料利用率の高いCVD合成技術を得たことで、非常に高価な同位体濃縮メタンを原料とするダイヤモンド合成が可能となり、12C同位体比で世界最高値の99.998% (13Cが0.002%) という値をもつダイヤモンドバルク単結晶を得ることに成功しました。高圧高温 (HPHT) 法によるダイヤモンド合成において、本技術で得られた多結晶ダイヤモンド(12C同位体比が99.998%)を固体原料として用いることで、12C同位体比が99.995%の単結晶ダイヤモンドが得られました。HPHT合成には固体炭素原料が必要です。一般に、12C同位体濃縮原料はメタンガス等、原料ガスとして供給されるため、HPHT合成用の12C固体炭素原料を得るには、メタン原料利用率を高めた本CVD技術は必須です。
- 12C同位体濃縮されたダイヤモンドは、12C天然存在比98.9% (13Cが1.1%) のダイヤモンドに比べて熱伝導度が高く、高性能ヒートシンクなどの様々な応用が期待されます。また、12C同位体濃縮したダイヤモンド結晶内では電子スピンのコヒーレンス時間が長くなる事が知られており、ダイヤモンドを用いた量子情報通信素子の高性能化に向けた開発の加速が期待されます。
- 本研究の一部は、日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究、及び科学技術振興機構の国際科学技術共同研究推進事業 (戦略的国際共同研究プログラム) 日独共同研究の一環として行われました。
- 本研究成果は、日本時間平成25年4月15日に科学雑誌「Applied Physics Express」のオンライン速報版で公開されました。