有機薄膜太陽電池用材料の新しい合成法を開発

高純度化により光電変換効率向上を実現

2014.02.11


国立大学法人筑波大学
独立行政法人物質・材料研究機構
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発

筑波大学とNIMSの研究グループは、NEDOの若手研究グラント事業の支援を受け、有機薄膜太陽電池に用いる高分子材料の新たな合成手法を開発し、高い純度を有する材料を簡便に得ることに成功しました。

概要

国立大学法人筑波大学 (以下「筑波大学」という) 数理物質系 桑原 純平講師と神原 貴樹教授および独立行政法人物質・材料研究機構 太陽光発電材料ユニット 安田 剛主任研究員の研究グループは、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の若手研究グラント事業の支援を受け、有機薄膜太陽電池に用いる高分子材料の新たな合成手法を開発し、高い純度を有する材料を簡便に得ることに成功しました。さらに、この方法で合成した高純度材料は、有機薄膜太陽電池の光電変換効率および寿命を向上させることを明らかにしました。これは、有機薄膜太陽電池の実用化に向けて、材料をどのように合成するべきかという指針を与える発見です。

有機薄膜太陽電池を構成する材料の一つであるπ共役高分子は、これまで主にクロスカップリング反応を利用して合成されてきました。この反応は多様な高分子の合成を可能にする一方で、スズやホウ素、リンなどの化合物を用いるため、これらに関連した副生成物 (不純物) を反応後に除去する必要がありました。これに対して本研究グループは、効率の良いカップリング反応を利用することで、スズやホウ素、リンなどを用いないπ共役高分子の合成方法を開発しました。この方法ではスズやホウ素、リンなどが生成物に残存する懸念が抜本的に解消されることから、精製のプロセスを簡略化することが可能となります。これは、低コストで純度の高い化合物が得られることを意味しています。

この方法で合成した高分子材料を太陽電池素子に実装したところ、4%の光電変換効率が得られました。従来法で合成した同じ骨格の高分子では変換効率が0.5%であることから、材料の純度の高さが太陽電池特性の向上に大きく寄与したことが確認できました。さらに、高純度材料を用いることで太陽電池が長寿命化することも見出しました。

本研究によって、有機薄膜太陽電池の特性向上における材料の純度の重要性を明らかにすると共に、高純度材料を提供する方法論が確立されました。将来的には高品質な太陽電池材料を低コストで製造することにつながると期待されます。

この研究成果は、「Advanced Functional Materials」のオンライン版に2014年2月10日に公開されます。


「式1 : 従来法と今回開発した新規合成法。従来法では反応剤に青字で示したホウ素 (B) が導入されている必要があり、触媒にリン (P) 化合物を添加する必要があった。これらは合成後に、不純物として残存する懸念がある。新規合成法では、赤字で示したC-H結合が反応点となるため、ホウ素等を必要としない。添加物が少ないため高分子に残存する不純物の量を低減できる。さらに、新規合成法では30分の反応時間で分子量14万以上の高分子が得られることから、反応効率についても優位性がある。」の画像

式1 : 従来法と今回開発した新規合成法。従来法では反応剤に青字で示したホウ素 (B) が導入されている必要があり、触媒にリン (P) 化合物を添加する必要があった。これらは合成後に、不純物として残存する懸念がある。新規合成法では、赤字で示したC-H結合が反応点となるため、ホウ素等を必要としない。添加物が少ないため高分子に残存する不純物の量を低減できる。さらに、新規合成法では30分の反応時間で分子量14万以上の高分子が得られることから、反応効率についても優位性がある。