災害時に人工透析代替を目指す高性能ファイバーの開発
慢性腎不全の応急処置のための携帯型“透析”システムへ道
2014.02.19
独立行政法人 物質・材料研究機構
NIMS 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点、生体機能材料ユニットの荏原 充宏MANA 研究者、滑川 亘希博士研究員らは、血中の低分子尿毒素の一つであるクレアチニンを選択的に除去できる高性能ナノファイバーメッシュを開発することに成功しました。
概要
- 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (拠点長 : 青野 正和) 生体機能材料ユニット (ユニット長 : 青柳 隆夫) の荏原 充宏MANA 研究者、滑川 亘希博士研究員らは、血中の低分子尿毒素の一つであるクレアチニンを選択的に除去できる高性能ナノファイバーメッシュを開発することに成功しました。このナノファイバーは、電気や水などのライフラインが寸断された災害時において、慢性腎不全患者を応急処置可能な携帯型“透析”システムの開発への道を開く新材料です。
- 透析液を大量に使用する従来の透析治療では、電力、水、交通手段などのライフラインが寸断された緊急時には尿毒素を除去することは困難でした。そこで今回の研究では、ナノファイバーの高い比表面積とゼオライトの尿毒素吸着能の2つの機能を合わせることで、血中尿毒素を選択的に除去できるナノファイバーメッシュの開発に成功しました。開発したのは腕時計型のカートリッジに取り付け可能なメッシュ状の材料で、ゼオライトを含有した生体適合性高分子のナノファイバーからなる不織布です。使用したゼオライトは、尿毒素を選択的に吸着できる細孔と性質を有しており、一時間でヒトの体内に蓄積するクレアチニン量 (約50 mg) を今回開発したファイバー25 gで除去することに成功しました。ゼオライトの種類を変えてナノファイバーを製膜することで、様々な種類の尿毒素除去が期待できます。
- 日本国内の慢性腎不全患者は30万人を超えており、年間約2兆円規模の医療費がかかっています。そして、ほとんどの患者は血液透析を始めとする血液浄化法により延命・社会復帰しているのが現状です。ライフラインや治療環境が寸断された場合、それが復旧されるまでの時間、腎不全患者の急性尿毒症を応急処置的に予防するためには、体内からの尿素およびクレアチニンと水の速やかな除去が不可欠です。現在の血液浄化法は、インフラが整備された医療用設備が必要です。このような現状の中、2011年の東日本大震災の際には、ライフラインの寸断によって透析治療を行うことが困難となった患者は、被災を免れた施設 (内陸部や首都圏など) への搬送を余儀なくされました。
- 今回は特に災害時医療の観点から研究を進めましたが、今後は、年間12%の割合で透析患者が増えている発展途上国などのインフラが未整備な地域での使用も想定しています。インフラが未整備な地域に住む多くの患者はいまだ治療が受けられていません。また、今回、尿毒素の一つであるクレアチニンをターゲットにした実験を行いましたが、今後は、他の尿毒素や過剰水分の除去も含め、尿毒素を総合的に除去できるインフラが未整備な地域用のデバイス開発を進める予定です。
- 本研究成果は、科学雑誌「Biomaterials Science」に掲載予定で、「Chemistry World」において日本時間平成26年2月19日18時 (現地時間18日9時) に公開されます。