量子スピン液体状態を示す純有機物質の発見

2014.05.01


磯野貴之 (東京大学物性研究所 元特任研究員/ 現・物質・材料研究機構 NIMSポスドク)
上田 顕 (東京大学物性研究所 助教)
宇治進也 (物質・材料研究機構 超伝導物性ユニット長)
森 初果 (東京大学物性研究所 教授)

量子スピン液体状態を示す純有機物質を発見しました。

概要

水は温度を下げると、運動エネルギーを失い、水分子が動けなくなった固体 (氷) となります。同様に、磁性体中の電子のスピン (S = 1/2: 電子が持つ固有の磁気モーメント) も、通常は低温では整列しスピンの固体となります。

ところが最近の精力的な理論研究は、三角格子上のスピンは、極低温まで液体状態 (量子スピン液体状態) を保つことを示唆しています。ただ、実際にそのような量子スピン液体状態が本当に存在するのか、そのスピン状態はどういうものか、本質は理解されていないため、量子スピン液体物質の探索が長年行われてきました。

本研究では、東京大学物性研究所の森 初果教授、磯野貴之元特任研究員 (現物質・材料研究機構NIMSポスドク) 、上田 顕助教グループが、水素結合系の単成分純有機伝導体 (注1) を探索している途上、物質・材料研究機構超伝導物性ユニットの宇治進也ユニット長のグループと共同で、純有機物質κ-H3(Cat- EDT-TTF)2の電子スピンが量子スピン液体状態であることを突き止めました。 (Cat- EDT-TTF : カテコール縮環エチレンジチオテトラチアフルバレン )

量子スピン液体の詳細な理解は、高温超伝導体の超伝導メカニズム研究や、新規のデータストレージや通信技術の開発において、新たな指針を提供すると期待されています。


「プレスリリースの図1 :    本物質κ-H3(Cat-EDT-TTF)2の(a)二次元bc面における二量化したCat-EDT-TTF)分子配列。(b)スピン1/2をもつ分子二量体を頂点とした異方的ニ次元三角格子。スピンに反強磁性的な相互作用があると、スピンはお互いにの反対向きになろうとする。三角格子で2つのスピン (赤と青矢印) がお互いに反対向きに配列すると、3つ目のスピンはどちらを向いてよいかわからない (エネルギー的に不安定な状態となる) 。このフラストレーション効果は、スピンが秩序状態になることを抑制する。(c) 有機分子の二次元層が水素結合で連結された結晶構造。青丸が水素原子。」の画像

プレスリリースの図1 : 本物質κ-H3(Cat-EDT-TTF)2の(a)二次元bc面における二量化したCat-EDT-TTF)分子配列。(b)スピン1/2をもつ分子二量体を頂点とした異方的ニ次元三角格子。スピンに反強磁性的な相互作用があると、スピンはお互いにの反対向きになろうとする。三角格子で2つのスピン (赤と青矢印) がお互いに反対向きに配列すると、3つ目のスピンはどちらを向いてよいかわからない (エネルギー的に不安定な状態となる) 。このフラストレーション効果は、スピンが秩序状態になることを抑制する。(c) 有機分子の二次元層が水素結合で連結された結晶構造。青丸が水素原子。