有機薄膜トランジスタを室温印刷によって初めて形成
1℃の昇温も行わない室温プリンテッドエレクトロニクスを確立
2014.05.08
独立行政法人 物質・材料研究機構
国立大学法人 岡山大学
株式会社コロイダル・インク
独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
独立行政法人物質・材料研究機構 (NIMS) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の三成剛生MANA独立研究者と、国立大学法人岡山大学 (以下「岡山大学」という) 異分野融合先端研究コア助教および株式会社コロイダル・インク代表取締役社長の金原正幸博士からなる研究チームは、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) 若手研究グラント事業の支援を受け、大気下・室温での完全印刷プロセスによって、有機薄膜トランジスタ (TFT) を形成するプロセスを確立しました。また、室温印刷プロセスによってフレキシブル基板上に形成した有機TFTにおいて、平均移動度7.9 cm2 V-1 s-1を達成しました。
概要
- NIMS (理事長 : 潮田資勝) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (拠点長 : 青野正和) の三成剛生MANA独立研究者と、岡山大学異分野融合先端研究コア助教および株式会社コロイダル・インク代表取締役社長の金原正幸博士からなる研究チームは、 (NEDO) 若手研究グラント事業の支援を受け、大気下・室温での完全印刷プロセスによって、有機薄膜トランジスタ (TFT) を形成するプロセスを確立しました。また、室温印刷プロセスによってフレキシブル基板上に形成した有機TFTにおいて、平均移動度7.9 cm2 V-1 s-1を達成しました。
- インク状にした機能性材料の印刷によって電子素子を作製するプリンテッドエレクトロニクスは、大規模で高価な製造装置を必要としないため、低コスト・大面積の新しい半導体素子形成技術として近年注目を集めています。プラスチック等のフレキシブル基板を用いることによって、Roll-to-Rollによる素子の大量生産や、ウェアラブル素子等の新しいアプリケーションが期待されています。しかし、従来のプリンテッドエレクトロニクスの欠点は、100~200℃以上での高温プロセスが多く用いられていることでした。PETフィルムのようなプラスチック基板の多くは耐熱性が低いため、高温プロセスを使わず、幅広い材料に適応可能な低温印刷プロセスの開発が望まれていましたが、これまで実現されていませんでした。
- 今回、研究チームは、すべての印刷プロセスを大気下・室温で行い、1℃も昇温することなくエレクトロニクス素子が製造可能な「室温プリンテッドエレクトロニクス」を確立させました。これまでのプリンテッドエレクトロニクスに高温プロセスが必要であったのは、主に電極として用いる金属ナノ粒子インクに焼成が必要であったためです。従来の金属ナノ粒子には、インクに分散させるための配位子として絶縁性の材料が用いられており、導電性の金属皮膜を得るにはナノ粒子を焼結させる必要がありました。今回、金属ナノ粒子の配位子として導電性を有する芳香族性の分子を用いたことで、塗布後に焼成することなく金属皮膜を形成させることに成功しました。形成した薄膜は、抵抗率9 × 10-6 Ω cmを達成しています。また、表面に微細な親疎水パターンを形成することで、常温導電性金属ナノ粒子および有機半導体を室温プロセスによってパターニングし、ソース・ドレイン電極、有機半導体、ゲート電極のすべてを室温印刷によって形成した有機薄膜トランジスタを作製しました。プラスチックおよび紙基板上に形成した有機TFTは、それぞれ平均移動度7.9および2.5 cm2 V-1 s-1を示しています。これは、アモルファスシリコンTFTの平均的な移動度0.5 cm2 V-1 s-1を大きく上回り、量産品のIGZO TFTの移動度 (~10 cm2 V-1 s-1) にも匹敵する値です。
- プリンテッドエレクトロニクスによってディスプレイ等を製造する場合、フレキシブル基板上に数ミクロンより高い位置精度で回路を印刷する必要があります。プラスチックや紙といったフレキシブル基板は熱に弱く、これまでのプロセス温度では変形や歪みが生じ、精度よく作製することができませんでした。製造工程をすべて室温で行うことによって、熱による基材の変形を完全に抑制し、微細な回路を高精度で印刷することが可能になります。さらに、大気下・室温で行う作製プロセスを用いれば、原理的には生体材料のような環境変化に極めて弱いものの表面にも電子素子を作製することが可能です。医療やバイオエレクトロニクス等、様々な分野への応用に繋がるものとして期待されます。
- 本研究成果は、Advanced Functional Materials誌に近日掲載予定です。