正常血圧の約2.8倍に耐える生体親和性の接着剤を開発

現状の問題点を克服 手術時間の短縮や医療費削減に期待

2015.10.15


国立研究開発法人 物質・材料研究機構 (NIMS)

NIMS 生体機能材料ユニットの田口哲志MANA研究者らは、血管の傷をふさぐ接着剤の開発において、正常血圧の約2.8倍の耐圧強度を有する生体親和性接着剤を開発しました。

概要

  1. 国立研究開発法人物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 生体機能材料ユニットの田口哲志MANA研究者らは、血管の傷をふさぐ接着剤の開発において、正常血圧の約2.8倍の耐圧強度を有する生体親和性接着剤を開発しました。タラ由来のゼラチンを化学修飾することで、現在主流である血液製剤として使用されているフィブリン接着剤の問題点を克服、これに代わる新しい接着剤として期待されます。
  2. 現在、外科治療における止血および組織欠損部の閉鎖補助材料として、血液由来成分を用いたフィブリン接着剤が頻用されています。しかし、その接着力は正常血圧より低く不十分で、特に湿潤組織に対する接着強度が弱いという課題がありました。この課題を解決するため、これまでにブタ由来ゼラチンに組織接着性・浸透性を向上させるために疎水基を導入した接着剤を開発し、生体組織・臓器との接着性が向上することを明らかにしてきました。しかしながら、ブタ由来ゼラチンは、低温・高濃度になるとゲル状 (ゼリー状) となるため、外科医が使用する前に温水等で加温して溶かす必要がありました。
  3. そこで本研究グループは、低温・高濃度でも流動性を示すタラ由来のゼラチンに、組織接着性が高いとされる疎水基の一つであるコレステリル基を化学修飾したコレステリル化タラゼラチンと、臨床使用実績のあるポリエチレングリコール系架橋剤を用いて外科用接着剤を開発しました。湿潤状態にある新鮮なブタ血管組織に直径3mmの穴をあけ、この接着剤を適用すると、341mmHgという耐圧強度を示しました。これは、現在使用されているフィブリン接着剤 (29mmHg) の約12倍、健常者の正常最大血圧 (約120mmHg) に対して約2.8倍という非常に高い耐圧強度です。
  4. 開発した生体親和性接着剤は、導入したコレステリル基が血管組織に浸透することで接着剤と血管組織との間で高い界面接着強度を示します。また、患部に適応後30秒以内に硬化し、8週間以内に体内の酵素によって吸収されるという高い生体親和性を持っています。
  5. 本接着剤は、血液やリンパ液等によって生じる湿潤環境において生体組織に強固に接着することから、心臓血管外科を始め様々な外科・内科領域への展開が期待できます。現在、筑波大学臨床医学系呼吸器外科との医工連携研究により、臨床応用に向けた基礎データの蓄積を進めています。
  6. 本研究成果は、学術誌Journal of Biomedical Nanotechnologyのオンライン電子版にて近く公開される予定です。

「プレスリリースの図3 :  開発した生体親和性接着剤の血管組織に対する耐圧強度比較。市販品 (フィブリン接着剤)  (左) と比較して、開発品 (右) は、約12倍の耐圧強度を示す。この耐圧強度は、正常最大血圧の約2.8倍に相当する。」の画像

プレスリリースの図3 :  開発した生体親和性接着剤の血管組織に対する耐圧強度比較。市販品 (フィブリン接着剤) (左) と比較して、開発品 (右) は、約12倍の耐圧強度を示す。この耐圧強度は、正常最大血圧の約2.8倍に相当する。