ナノシートをシード層に用いた各種結晶薄膜の配向成長

非常に平滑・高結晶性のシード層を様々な基材の上に室温で作製可能

2007.10.15


独立行政法人物質・材料研究機構

NIMSとJSTは、様々な基材上での高品質の配向膜の成長を可能とするシード層を、無機ナノシートという独自素材を用いることで室温にて作製することに成功した。

概要

独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 岸 輝雄、以下NIMS) と独立行政法人 科学技術振興機構 (理事長 : 北澤 宏一、以下JST) は、NIMSナノスケール物質センター (センター長 : 佐々木 高義) ソフト化学グループの柴田 竜雄 JST研究員、佐々木高義センター長らにより、様々な基材上での高品質の配向膜の成長を可能とするシード層を、無機ナノシートという独自素材を用いることで室温にて作製することに成功した。

  1. 様々な先端材料の薄膜化は電子デバイスや発光デバイス等を作製する上で欠くことのできない基盤技術である。Si、GaN、ZnO等の材料では、結晶性や配向性などの結晶の質を上げることでより優れた特性を示すようになるため、薄膜作製における結晶成長のコントロールが重要な課題となっている。既存の方法では単結晶を基板につかったり、基板と薄膜の間にシード層を導入したりすることで結晶成長をコントロールしていたが、単結晶基板にはサイズ限界・高コストといった問題があり、またシード法にも、平滑で良質なシード層を得るためには高価な装置や熱処理などが必要といった課題が存在した。
  2. 今回開発したナノシートシード基板は、無機ナノシートとよばれる厚さが約1~2 nm (原子数個分) 、横サイズが数十μmのシート状の二次元ナノスケール物質を用いる。ペロブスカイト構造をもった酸化ニオブナノシートの単層膜を溶液プロセスによって基板表面に形成することで、従来の単結晶基板にせまる平滑性・結晶性をもったシード層をガラス基板上に室温で作製し、これをシードとして、チタン酸ストロンチウムや酸化チタンの配向膜を成長させることに成功した。また酸化ニオブナノシートとは異なる構造を持った酸化マンガンナノシートを利用したシード層の作製にも成功している。
  3. 今回の成果は、熱処理を必要とせず室温にて高結晶性・平滑なシード層作製技術を提供するものであり、次世代のフレキシブル電子デバイスのキーマテリアルであるプラスチック基板などこれまで困難とされてきた様々な基材への適用、その上での各種結晶の高品位・配向成長が可能となると期待される。また本手法では、シード物質を既存の様々なナノシートから選択することによって、成長させる薄膜物質の構造に適したシード基板を作製することが可能である。また低コストの室温溶液プロセスを利用することで作製できることから、低環境負荷のグリーンプロセスという利点も有している。
  4. 本研究成果は、JST戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CRESTタイプ) のナノテクノロジー分野別バーチャルラボの研究領域「エネルギーの高度利用に向けたナノ構造材料・システムの創製」 (研究総括 : 藤嶋昭) の研究課題「光機能自己組織化ナノ構造材料の創製 (研究代表者 : 佐々木高義) 」の一環として得られたもので、国際学術誌「Advanced Materials」(Wiley-VCH社)に近日掲載予定である。

「プレス資料中の図2: ガラス基板上に作成した酸化ニオブナノシートシード層の表面構造 (原子間力顕微鏡像)」の画像

プレス資料中の図2: ガラス基板上に作成した酸化ニオブナノシートシード層の表面構造 (原子間力顕微鏡像)