ナノハーフメタルの開発に成功
スピン流伝送の可能性
2007.10.22
独立行政法人物質・材料研究機構
NIMSナノ物質ラボは、計算科学センター、米国オークリッジ国立研究所と共同で、ナノハーフメタルの開発に成功した。
概要
- 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 岸 輝雄) ナノ物質ラボ (ラボ長 : 室町 英治) 新物質発掘グループの室町 英治 グループリーダー、山浦 一成 主幹研究員は、計算科学センター (センター長 : 大野 隆央) 第一原理反応グループの新井 正男 主幹研究員、米国オークリッジ国立研究所 (ディレクター : トム・メイスン) 強相関電子物質グループのデービット マンデラス・グループリーダーと物性理論グループのサトシ オカモト・グループスタッフと共同で、ナノハーフメタルの開発に成功した。
- ハーフメタルはその特殊な電子状態に起因する完全スピン分極のため、スピントロニクス分野での幅広い応用が期待されている。ハーフメタル結晶は理想的にはアップスピン電流だけを通すため、例えばスピン素子やスピンデバイスの開発に役立つと考えられている。より具体的には、高機能なハードデイスク用磁気ヘッド、不揮発性磁気メモリ、スピントランジスターの開発に利用できる可能性がある。
- 今回、山浦らが開発に成功したナノハーフメタルは、従来のハーフメタルにない新規な特徴がある。この新結晶 (化学組成 : NaV2O4) は学術的にはポストスピネルと呼ばれ、ナノスケールサイズの鎖を束ねたような構造になっている。これまでの研究から、このナノスケール鎖それぞれがハーフメタル状態になっていると考えられる。このようなナノスケールでの特徴は従来のハーフメタルにはなかった。
また、アップスピン電流を担うナノスケール鎖とダウンスピン電流を担うナノスケール鎖が交互になっているため、従って、アップスピン状態だけでなくダウンスピン状態の電子も分極電流を担っている (スピンナノ分流) 。このようなダウンスピン状態の電子が流れるハーフメタルはいままでなかった。つまり、ナノハーフメタルはハーフメタルの単なるダウンスケールではなく、全く異なる状態であり、スピントロニクスマテリアルとしての新しい可能性を提示している。 - ナノハーフメタルはこれまでのハーフメタルにないナノスケール性、スピンナノ分流、外部磁場安定性 (成果の内容参照) を備えている。ナノハーフメタルのスピン伝導状態は本質的に新しく、革新的なスピン素子やスピンデバイス開発に利用できる可能性がある。具体的には、スピンホール素子7) と組み合わせることによって、これまで難しかったスピン流7) の伝送に役立つ可能性がある。この技術が実現すれば、革新的次世代デバイスとして期待されているスピンホールデバイス開発7) に新たな展開を開くことができる。
- 今回の成果は、米国物理学会の速報誌 (フィジカル・レビュー・レター、10月26日号) の注目論文として公開される予定である (10月24日にオンライン版が発行予定) 。