溶液から高移動度有機トランジスタ

溶液を垂らして蒸気に曝すだけで世界最高移動度有機結晶トランジスタを作製

2010.11.29


独立行政法人物質・材料研究機構

NIMS国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の塚越 一仁 主任研究者らは、広島大学の瀧宮 和男 教授と共同で、溶液から有機結晶トランジスタを作る溶液プロセスを開発し、世界最高の電界効果移動度を有する有機トランジスタを基板上に直接作ることに成功した。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (拠点長 : 青野 正和) の塚越 一仁 主任研究者らは広島大学の瀧宮 和男 教授と共同で、溶液から有機結晶トランジスタを作る溶液プロセスを開発し、世界最高の電界効果移動度を有する有機トランジスタを基板上に直接作ることに成功した。
  2. ノートPCや電子書籍などの発展によって、情報・画像メディアの携帯化が進んでいるが、現在主流である液晶ディスプレイは、トランジスタ作製温度の制限によってガラス基板上に作られている。携帯化のための軽量化にはガラス基板を薄くしなければならないが、衝撃に弱いガラス基板ディスプレイは壊れやすいため限界がある。これに対して、有機トランジスタを使えば、軽量かつフレキシブルなプラスチック基板上に高性能な画素駆動トランジスタアレイを作ることができる。
  3. 今回、我々は有機分子同士が自発的に重なって結晶を作る自己組織化を最大限に引き出す方法を独自に開発した。有機溶媒に溶かした材料を基板上に滴下し、溶媒蒸気を短時間当てるだけで、高性能の有機結晶トランジスタを作ることができる。通常、有機薄膜デバイスは伝導度を低下させる結晶粒界が多く含まれるが、本結晶膜には結晶粒界が無く、空気中で作製しても高特性が得られる。この結晶を用いて作製されたトランジスタは、溶液から作ったトランジスタとして、世界最高の電界効果移動度(9.1 cm2/Vs)を達成した。一般的な溶液法で作られた多くの素子の電界効果移動度が1 cm2/Vs程度であることと比較すると、大きな改善である。
  4. 従来の有機半導体結晶では、電気伝導は素子を冷却するとマイナス70℃程度まで移動度が上昇するが、更なる低温では移動度が低下する。しかし、今回の方法で作った素子では、マイナス200℃までの計測で移動度は連続的に上昇し、結晶粒界などによる電気伝導散乱は起こらない。この結果は、これまで議論されていた有機結晶半導体の伝導機構がバンド状伝導であることを明らかにした。
  5. 本手法は真空装置などを用いない簡便な方法であり、容易に有機半導体の特性を向上させる方法である。将来のロール式連続プロセスへの適応も可能であり、フレキシブルな情報・画像メディアの実現を目指す研究に有効となる。
  6. 本研究は、独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究 (CREST) の「ナノ科学を基盤とした革新的製造技術の創成」研究領域 (研究総括 : 堀池 靖浩、独立行政法人物質・材料研究機構 名誉フェロー) における研究課題「ナノ界面・電子状態制御による高速動作有機トランジスタ」 (研究代表者 : 塚越 一仁) の一環として行われた。

「プレス資料中の図2 : 第2ステップ。ガラス容器に試料と溶媒を簡単に封じ込めて待つだけで、絶縁ポリマー状の有機半導体膜が分子レベルで再構成されて結晶化する。」の画像

プレス資料中の図2 : 第2ステップ。ガラス容器に試料と溶媒を簡単に封じ込めて待つだけで、絶縁ポリマー状の有機半導体膜が分子レベルで再構成されて結晶化する。