金属ガラスの異常軟化現象と剪断帯抑制効果を発見

“構造若返り”の利用で金属ガラスに常温加工の可能性を示唆

2012.09.24


独立行政法人物質・材料研究機構

NIMS 構造材料ユニットの土谷 浩一副ユニット長らは、東北大学金属材料研究所との共同研究により、金属ガラスに5GPaの高圧下で巨大な剪断ひずみを付与する事で、硬度や弾性率が顕著に減少する異常軟化現象を発見した。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) 構造材料ユニット (ユニット長 : 津﨑 兼彰) の土谷 浩一 副ユニット長 (東北大学金属材料研究所客員教授 平成24年4月1日~平成24年9月30日) 、孟 凡強 (メン ファンチャン) NIMSジュニア研究員、井 誠一郎主任研究員らは東北大学金属材料研究所 (所長 : 新家光雄) 金属ガラス総合研究センター (センター長 : 牧野彰宏) との共同研究により、金属ガラスに5 GPaの高圧下で巨大な剪断ひずみを付与する事で、硬度や弾性率が顕著に減少する異常軟化現象を発見した。この異常軟化に伴い金属ガラスを常温で変形したときに発生する剪断帯が抑制されることも明らかにした。
  2. 金属ガラスは非晶質金属材料の一種であり、通常の金属と比べ高強度・高耐食性・軟磁性などの優れた特性を持っている。その理由は、結晶金属材料のような周期的な構造を持たず、転位や結晶粒界も存在しないためである。この優れた特性を利用して、すでに磁気デバイスやゴルフクラブ、ショットピーニング用投射材などに応用されているが、常温で変形すると、変形が局在化しやすく延性に乏しいため応用範囲が限られていた。
  3. 土谷らはZr50Cu40Al10金属ガラスの円盤状試料に常温で5 GPaの高圧下で巨大ねじり加工する方法 (高圧ねじり加工、High-Pressure Torsion (HPT) ) で剪断歪みを付与した時の力学特性の変化をナノインデンテーション法により調べた。その結果、変形量の増加とともに硬さと弾性率が低下し、50回転ねじり加工後は加工前の値と比較して硬さが22%、弾性率が30%と大きく低下した。これは金属ガラスの原子レベルの構造がHPT加工により液体状態に近い状態へと変化する“構造若返り (structural rejuvenation) ”によって引き起こされたものである。
  4. さらに、ナノインデンテーション後の圧痕を走査プローブ顕微鏡で観察した所、加工前の試料では圧痕の周囲に多数の剪断帯が見られたが、HPT加工量の増加とともに剪断帯の数が減少し、50回転加工後は剪断帯が全く見られなくなった。これはHPT加工により変形の局在化が抑制され、より均質な変形モードへと変化する事を示している。この発見は金属ガラスの常温加工の可能性を示唆するもので、マイクロ~ナノシステムなどへの応用展開を可能にすると考えられる。
  5. 本研究成果は文部科学省科学研究費補助金・新学術領域研究“バルクナノメタル - 常識を覆す新しい構造材料の科学”及び東北大学金属材料研究所金属ガラス総合研究センター全国共同利用の支援で得られたものである。なお本成果は2012年9月20日発行のApplied Physics Letterに掲載された。

「プレス資料中の図2:ナノインデンテーション圧痕の走査プローブ顕微鏡像のHPT加工と熱処理 (400℃,1時間) による変化」の画像

プレス資料中の図2:ナノインデンテーション圧痕の走査プローブ顕微鏡像のHPT加工と熱処理 (400℃,1時間) による変化