ディスプレイの制御に必要な金属酸化膜トランジスタの開発に成功

スマートフォンの電池持続向上やテレビの高精細化を可能にする次世代デバイス

2012.10.17


独立行政法人物質・材料研究機構
独立行政法人理化学研究所

NIMS 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の塚越 一仁 主任研究者らは、独立行政法人理化学研究所ナノサイエンス研究施設と共同で、従来にない原子材料構成による金属酸化膜トランジスタの開発に成功しました。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (拠点長 : 青野 正和) の塚越 一仁 主任研究者、生田目 俊秀 統括マネジャーらは、独立行政法人理化学研究所ナノサイエンス研究施設 柳沢 佳一テクニカルスタッフと共同で、従来にない原子材料構成による金属酸化膜トランジスタの開発に成功しました。
  2. 金属酸化膜トランジスタは、現在のテレビ、コンピュータ、スマートフォンなどのフラットパネルの画素をスイッチするアモルファスシリコントランジスタの次世代材料として、研究・技術開発が進められています。現状のアモルファスシリコントランジスタを用いたディスプレイでは、高精細化やタッチパネル化によって消費電力が激しく増加しております。その特性の改善には限界があることから、アモルファスシリコン薄膜に代わる新材料が必要とされておりました。近年、インジウム、ガリウム、亜鉛、を酸化させて混合したターゲットからつくるIGZO膜トランジスタが高い電界効果移動度で動作することが発見され、実用化展開のためのプロセス開発がすすめられております。しかし、金属酸化膜を半導体薄膜としてトランジスタ化するためには、材料の酸素や水分に対する制御が極めて難しく、これらの制御開発が課題となっていました。このために、扱いやすい原子で構成される新たな金属酸化膜で、トランジスタ動作が可能な材料の探索が続けられておりました。
  3. 今回、我々は酸化インジウムに、酸化タングステンを極微量添加するだけで、薄膜トランジスタとして動作するIWO薄膜を開発しました。開発した材料には、アモルファス状態で制御が難しい元素であるガリウムや亜鉛を含みません。また、この新材料は、基板加熱などなしに低エネルギーでスパッタ成膜するだけで、均質なアモルファス膜を作ることができることから薄膜化が容易であり、従来よりも薄い膜厚10nmで保護膜なしの構造であっても、高い特性を有するトランジスタとして動作します。このため、原料単価の高いガリウムを省けるだけでなく、薄膜原料量も減らせることから材料コストを低減する効果もあり、製造効率も向上します。
  4. 今回の成果は、爆発的に普及が進んでいるスマートフォンでのバッテリーの大きな消費源であるディスプレイの低消費電力化に有効なだけでなく、テレビの高精細化のための周波数向上に有効な技術として期待されます。
  5. これらの成果は、住友金属鉱山(株) 材料事業本部の協力を得て行った研究によって得られました。

「プレス資料中の図1:試作素子の光学顕微鏡写真と模式図室温基板に対して、DCスパッタでIWOターゲットから薄膜をSiO2/Si基板上に成膜し、電極を形成したのちに100℃にて熱アニールを行った。基板上の電極をソース・ドレイン電極とし、基板をゲート電極として特性を計測。」の画像

プレス資料中の図1:試作素子の光学顕微鏡写真と模式図
室温基板に対して、DCスパッタでIWOターゲットから薄膜をSiO2/Si基板上に成膜し、電極を形成したのちに100℃にて熱アニールを行った。基板上の電極をソース・ドレイン電極とし、基板をゲート電極として特性を計測。